517 未来に向かって生きる

それしかないじゃないか。過去に向かって生きることは
絶対に出来ない。1秒前でさえ戻れないんだ。

アルコール依存症になる前。我が家は本当に幸せだった。

俺は楽器メーカーの正社員を務めながら音楽教室で
ドラム講師を続けていた。妻は好きなゴルフをキャディとして
働くようになり、息子は本当に優しい優しい子に育った。

誕生日や季節のお祝い事は欠かさずに、家族皆が笑顔はじける
そんな家庭だった。

俺が23歳、妻が19歳で出会った。
ここまで一人の人を好きになったことはない。
沢山の壁が立ちはだかったが、俺たち夫婦は乗り越えた。

どれほど愛しかったっことか。どれほど大切だったか。
言葉では言い尽くせない。

40歳の頃に勤務先楽器メーカーが業績悪化により、このままでは
営業所がなくなるという判断のもと、直属の上司が進言してくれた。
退職した俺は単身首都圏に行くことになった。ドラマーとして
クリエイターとして勝負をかけた。

今思うとそのあたりから俺は
アルコール依存症に向かって
どんどん進んでいた。

でもね

今それを言っても戻せないんだ。
その時はその時で自分なりに必死で
家族を良くしようと行動していたはずだ。

結果だけ見て失敗だというのは簡単だ。
じゃぁお前がやってみろ。絶対出来ないから。

過去には戻れない。
幸せだった輝いていた過去を思い出して、そうじゃない今と比べても
何ら意味がないし何も生まれやしない。

分かってるんだよ。

でも幸せだった頃を思い出す。涙が溢れる。

解決方法はまだわからない。強いて言えば、俺は今の一分一秒を
前向きに俺そのもので取り繕うことなく生きるんだ。
ドラマーとして今一度自己を確立するんだ。実際やってたんだから。
そしてそれを続けていたら、今の段階では想像もできない未来があるだろう。
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