入院患者の記憶
Aはまだ30台か。両腕にかなり派手な刺青がある。
普段は隠すようにサポーターを装着している。
そんな手間暇かけるくらいなら初めから
刺青なんて入れなきゃいいのに。
俺は温泉:スパのジャンキーなので体に色を入れる
気持ちはさっぱりわからない。興味もない。
まぁ彼に限らず、患者の刺青率はかなり高かったが。
面白いのは、色が入る前の、線だけの中途半端な
状態の男も結構見られたことだ。そこまで半端か。
Aは会話テンポが若干遅い。舌足らずな感じだ。
そしてその内容がどうもかみ合わないのだ。
後から知ったが、軽度の知的障害だったようだ。
知的障害とアルコール依存を抱え、刺青だらけの
Aは、これからの人生をどうするつもりなんだろう。
まぁ大きなお世話だろうが、つい考えてしまう。
普通に考えて病院からは生涯出られないだろう。
親からも見放されている模様だ。それでもまあ
生活保護をもらっていれば入院+小遣いには困らない。
週に一度、医療スタッフに買い物を頼むのだ。
これは「赤」すなわち病棟から出られない患者のための
政策なのであろう。ほとんどの患者はお菓子、チョコ、
そしてコーラを依頼する。コーラの志向率が高い。
Aもいつも2リットルのコーラを5本以上頼んでいた。
いつだったか12本を依頼して怒られたりしていた。
彼の人生とはいったいどのようなものだろう。
俺の人生はこれだ。