ネクスト杉山

余りに大きな犠牲を払ったが、ようやくアルコール依存症を乗り越えたドラマーの、明日への布石

325 病室、病棟の実態

写真をたくさん撮っておくんだった。
当時はそんな余裕もなかったんですよ。

まずベッド。鉄製。

金属の枠にコンパネみたいなスノコがはめられ
自分で敷く敷布団、シーツ、毛布に掛布団、
枕、それぞれのカバー。寝具は週に一度交換だ。
看護師が各部屋を回り運搬、敷布団も掛布団も
カバーは自分で取り付ける。かなりのコツが要る。

このベッド、緑色の塗装がなされているが、50%は
剥がれ落ちている。金属のさびた色そのままが
むき出しになっている。一説では50年以上経過とのこと。
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枕元は棚になっており、私物を収納する。
カギのかかるボックスがあり、貴重品を収める。
俺は財布と外付けHD、眼鏡を入れていた。

また物干し用ワイヤーが張られており、
皆タオルを干していた。俺はタオルのほかS字フックを買い
アクセサリーを並べていた。看護師に怒られるんだが
そんなものは無視していた。

どう考えても「普通ならベッド4つ分だろう」と見える
空間に、7ベッド
が押し込まれている。左右の壁に
3つ対4つで並ぶ。俺は二人部屋~監視部屋301を一週間で
出され、307の7人部屋に移動させられた。当日突然。

4人の側になったが、たまたま廊下に面した端なので
まだましだ。出入りもしやすいしそもそも隣に一人だけで
右側は廊下側の壁なので。これが4人列の中央だったら
さぞかしストレスがたまったことと思う。
隣の患者までは30㎝である。

毎日のように看護師が各患者を回って各種課題や
提出物の確認、はたまた単なる世間話やこれからの
人生を語りあったりする。それも治療の一環なのか。

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テーマに沿って書いたものを提出したりする。
これは院長先生からテーマが出されるのだ。
もう全部捨ててしまったが、「酒害に伴う実話を」とか
「アルコールで体験したエピソード」等々のテーマで
書かされる。俺は出来るだけきれいな字で細かく長く
素直に書いたつもりだ。


隣の男は同世代と見える。極端な無口である。
目が死んでいる。小耳にはさんだのだが、
もう4年ほど入院しているとのことだ。
隣に看護師が椅子をもってきて座る。当然聞こえる。


「〇さん、読んだんだけど、飲んで暴力は仕方がないって
書いてあるよね?どうして仕方がないの?」


「・・・飲んだら・・・手が出る・・・から」


「それって仕方がないのかな?」


「・・・だって・・・手が・・・出る・・・」

「酔ってるから手が出るんじゃない?酔ってなければ
手足を出す前に考えて言葉になると思うんだけど?」


「・・・いや・・・ちょっと・・・わから・・・ない」

「でさ、〇〇のお店で飲むんだよね?通院中の頃も
毎日通ってたんでしょ?ツケで。そして飲食代を
請求されたら〇さん暴れてマスターにけがさせたよね?」


「・・・はい・・・」

「それについてはどう思ってるの?」

「・・・別に・・・あまり・・・何も・・・」

「〇さん、それじゃ退院出来ないよ?自分のやったことをさぁ
振り返ったり反省したり、もう同じ間違いをしないように
するためにはどうしたらいいかを考えないとさー」

「・・・」

「一回この課題は返すよ?もう一度しっかり考えて書いて」

「・・・はい・・・」
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これが五十代と思える男の会話であり反応だ。
そんな患者が残り5名、俺以外はほとんどそんな
やり取りを看護師や先生と繰り返している。

彼は多分出られないと思う。

軽度の知的障害と見える患者も複数いる。
幼児のようにしゃべる40代の男は両腕に刺青があり
隠すようにサポーターを装着している。
いつもいつでもニコニコしている。時折仲の良い患者と
ふざけて殴り合いを始め、双方徐々に本気になって
血だらけになったりしている。

この項、続きます。


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