命を救ってもらったんだ:完結編
入院初日、5月25日。さっきまで一緒だった家族は
厳重なカギの向こう側だ。もう帰っちゃったかな。
監視部屋に収容されるや否や、寝具の整備、
私物の格納整理、必要書類の説明署名等々、
息つく間もなくやることが続いた。
何時間経ったんだろう、突如ぽつんと独りになった。
ベッドに仰向けでただ医療器具を眺めていた。
そして、今家族はどこにいるのか、ぼんやりと思う。
この日から10月1日までの4ケ月強。
俺は病室を2回移動、3つの部屋を利用したんだ。
とてつもなく苦手な女性看護師がいた。
怒鳴りつけるんだよ。院長はいいといっていた
パソコンもダメだダメだと叫ぶし、人の目を見ては
大声で「大丈夫なの?」などと叫ぶ。
この人には、他の患者もキレている場面をよく見た。
院長も厳しかった。単なるイジワルじゃねえの?ってな
問答を繰り広げたがるんだ。ロールプレイングだ。
「もしもお世話になった大先輩が酒の瓶をもって
君の部屋にやってきて、一緒に飲もうってなったら?」
「医者に止められてるんで飲めないんです」
「ちょっとくらい大丈夫だって」
「いえ、すみませんが本当に飲めないんですよ」
「大丈夫だって少しくらい」
「一口も飲んじゃダメなんです」
「いいからいいからまず一杯行くぞ」
「本当に飲めないんです」
「大丈夫だ丈夫、少しくらいほら」
「いえ、少量でも飲ん」
「いいからいいから、ほら」
・・・こんな仮想問答が延々続く。殴ろうかと思った。
でも今思うと、厳しかったりした看護師や先生ほど
よく覚えてるんだ。その言葉も染みているんだよ。
優しくて穏やかで好きだった初老の看護師さんの言葉は
何一つ覚えていない。悔しいが、件の看護師さんと院長先生に
生かしてもらった5,6弾目になることに間違いはない。
入院しても俺は、酒をやめる気持ちは全くなかった。
初日からの一週間は病棟から出られない。(これは赤)
一週間後から「敷地内であれば出られる」=黄色。
※これで屋外の敷地内喫煙所が利用できる。
さらに一週間後、病院敷地外に出られる(青)
二週間後の青以後、俺は早速病院向かいにある
スーパーアークスで数本の9%を飲んだんだ。