鬱の原因
それは明らかに家族の喪失だ。
手前みそだが本当に仲が良く幸せな家庭だったのだ。
俺が酒害にまみれる前までは。
実際に緑色の紙に署名したとき、俺の体内にはまだ
酒があったはずだ。入院する当日まで飲んでいたのだから。
それゆえ、そもそも署名するとはどういうことか、
ロクにわかっていなかったと思われる。
元妻はあれほどまでに俺のことを、人のことを思い
自分を後回しにして尽くす人だった。
俺から見たら奇跡のような人なんだ。
そんな宝物のような人に対して俺はどうだったのか。
自分が飲むことだけが大事だった。
隠れて飲み隠して飲んだ。
与えてしまった心配、悲しみ、不安、涙。
恩をあだで返し続けた俺が、
一体どんな顔して会えるというのか。
どのツラ下げて連絡できるというのか。
俺よ、悲しめ。もっとつらい目にあえ。罪を自覚しろ。
俺の鬱は、自分勝手に一方的に欲しがっていた元妻の
心を失ったからだ。今更得られるわけがない。
結局俺は自分の都合ばかりじゃないか、だから酒に逃げて
目の前の人の心を見ないようにばかりしてきたんだ。
取り消しのつかないことをしてしまったんだ。
これは病気だ。自分の意志ではコントロールできない。
そんなことはわかっている。良い悪いではなく病気だ。
でもそれで割り切れるもんじゃない。
俺はそれでなくても孤独感を禁じ得ない病室で
ただひたすらにblogを投稿し、逃げるかのように
仕事に没頭した。気が付けば退院まであと9週間となっていた。